スクールソーシャルワーカー 横井 葉子 先生

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第4回 学校と福祉をつなぐSSWだから見えた 多様な教育実現のために大切なこと

上智大学 総合人間科学部 社会福祉学科 助教 スクールソーシャルワーカー 横井 葉子 先生

上智大学 総合人間科学部 社会福祉学科 助教
スクールソーシャルワーカー 横井 葉子 先生

プロフィール
大学で社会福祉を学んだ後、障害者福祉、高齢者福祉の仕事に従事。退職後、上智大学 大学院 総合人間科学研究科 博士前期課程を修了(社会福祉学修士)。2009年から現在に至るまでスクールソーシャルワーカーの職務に従事。社会福祉士、精神保健福祉士の資格を有する。

教育現場でのスクールソーシャルワーカー活用事業のひろがりとともに喫緊の課題となっているスクールソーシャルワーカーの実践プロセスの可視化、役割に着目した研究に取り組んでいる。

多くの福祉は申請なくして得られない 申請なしでつながれるのが “学校” の強み

私は大学卒業後、障害者福祉と高齢者福祉の分野で長く仕事をしていました。2009年からスクールソーシャルワーカーとして働き始めましたが、実際に働いてみてはじめて、職務の特性と重要性に気付かされました。

福祉でサービスなどを受けるためには、通常、申請をしなければなりません。病院や役所の福祉を扱う部局には、どんなに病が重かったり生活が困窮したりしていても、通常は自らアクセスしなければ治療や生活保護は受けられません。ところが学校(義務教育)は、就学年齢になれば基本的にはその地域の子ども全員に学籍が与えられ、みんなが『生徒』になります。つまり、義務教育の現場からは「申請」がなくても福祉の課題を抱えた子どもや保護者を把握できるのがポイントだと思っています。

私は地域の福祉的課題が、義務教育の制度を通じて、学校に集約されているというふうに感じています。学校なら当事者の申請を待たずとも、困難を抱えている家庭に接触し、支援につなげることができます。福祉機関の目が届かない子どもにも、義務教育であれば接触が持てるという点で学校が担う福祉の役割は非常に重要なものだと思っています。

2008年から正式にスタート スクールソーシャルワーカーとは?

学校では、貧困や虐待をはじめ権利を侵害されて苦しんでいる子どもが把握されることがしばしばあります。発見された課題を地域の関係機関につないでいく役割は非常に重要です。しかし、それらを全て教職員の方にお願いしようとしても、課題は大変複雑で、負担が大きいと思います。

例えば、先生がいろいろな判断を迷ってしまったり、各機関と十分な連携ができなかったりといった例も見てきました。そういった部分の仲立ちや調整をしていくのがスクールソーシャルワーカー(以下SSW)の仕事の重要な一部です。 人だけではなく、制度や学校のしくみをはじめとする構造にも働きかけてゆきます。

具体的には、うまく機能していない会議等があれば、どのように変えればうまくいくのか提言したり、SSW自身が参加して働きかけたりといったことです。 教職員向けの研修も行います。2015年の夏は特に講師の依頼が多くありました。求められるテーマは「関係機関との連携の仕方」「保護者とのつながり方」など、学校外との連携に関するものが多かったです。

SSWになる人の経歴はさまざまです。全国的にスタートしたのが2008年と比較的新しい職種であり、ようやく今年4月から文科省が資格を「原則として社会福祉士・精神保健福祉士」と定めました。文科省によれば社会福祉士と精神保健福祉士の資格を持っている人の割合は増加傾向にあり、教員免許を持っている人の割合は減少傾向にあります。

多様な教育の実現には 経済状況や居住地に依らない体制整備が不可欠

多様な子どもたちを受け止められる多様な居場所が、今とても必要とされていると感じます。公立、民間、公設民営などいろいろな実施主体があってほしいです。フリースクールにしても、多様な子どもたちをそれぞれ受け止められる場所が地域になければならないと思います。例えば昼間通学したい子もいるでしょうし、夜でなければ家から出られないという子もいます。

不登校の子どもたちが遠方のフリースクールへ通学するのはとてもハードルが高いことです。ですから、あらゆる地域の子どもが通学できる体制を整備する必要があると思います。 今必要な支援の在り方で、特に制度が行き届いていないのは、訪問型のサポートではないかと思います。実際、私たちSSWが学校から対応を依頼されるケースで、かなり多くを占めているのも『子どもに会えない、保護者にも会えない』家庭です。 公的に利用料などの負担を減免した訪問型の支援が増えていかないとなかなか突破口は開けないだろうと思います。

まずは訪問型の支援でつながり、その後子どもがそれぞれ通うことができる居場所へ行く。そういう仕組みが地域ごとにデザインされていないと、どんな子どもたちも自立していけるというのは難しいのではないでしょうか。特に経済的に困難を抱えている家庭を支援から取りこぼしてはいけないと思うのです。

困難を抱えた子どもたちを見過ごしてしまうと、将来的にますます大きな問題を抱えることにつながります。何らかの障がいがあるのに適切なサポートを受けていない場合もあります。そうなると、必要な知識やスキルを身につけられず、就業の際も低賃金だったり不利な労働条件だったりという仕事しか見つからないということになりかねません。少しでも福祉的課題を持っている子どもや家庭を、さまざまなサービスにうまくつなげて調整するのが私たちSSWの大きな役割だと思っています。

スクールソーシャルワーカー(SSW)による支援とは

SSWは多くの場合、教育委員会に所属し、学校をベースに動く。学校との協働関係のもと、情報を集め、支援計画を立て、実施に向けて役割分担を行う。 ときにはこれと見定めた見立てが不十分で、思うような成果が出ない場合もある。例えば「不登校の原因だと思われていた貧困問題が、生活保護の受給である程度改善したのに、やはり学校に来られない」等。段階4の『チェック』で成果を確認する会議等が行われ、方針を再確認した上で段階1の『見立て』に戻って支援を立て直すことになる。

スクールソーシャルワーカー活用事業の趣旨
いじめ、不登校、暴力行為、児童虐待など生活指導上の課題に対応するため、教育分野に関する知識に加えて、社会福祉等の専門的な知識・技術を用いて、児童生徒の置かれた様々な環境に働き掛けて支援を行う、スクールソーシャルワーカーを配置し、教育相談体制を整備する。

スクールソーシャルワーカーの職務内容
• 問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働き掛け
• 関係機関等とのネットワークの構築、連携・調整
• 学校内におけるチーム体制の構築、支援
• 保護者、教職員等に対する支援・相談・情報提供
• 教職員等への研修活動

文部科学省「スクールソーシャルワーカー活用事業実施要領」(平成25年)より抜粋


段階1 見立て(アセスメント)
児童生徒の状況を情報収集して整理し、「何を解決すべきか」をまず共有し合う。ここで優先順位の高い課題を絞り込む。

教職員によるケース会議または学校・関係機関によるケース会議は、まずこの「段階1」や次の「段階2」で行うとよい。複数の人で、多角的な視点からアセスメントを行うのがポイント。児童生徒の強み(よいところ、うまくいっている点などポジティブな点)を加味して課題を捉え、それを「段階2」に生かすことも大切。

段階2 計画(プランニング)
段階1で共有した優先順位の高い課題に対して、それが解決した状態(ゴール:目標)を描き出し、言葉にして共有する。これらは「短期目標」「長期目標」などに整理して、支援教育用の個別シートなどに書いて管理するとよい。

さらに、それらの目標を実現するための手段・方法を考え、関係者で役割分担と時期(いつまでに、誰が、何をする)を決める。この時点で、決めた時期に合わせて「振り返り・チェック」のためのケース会議日程を関係者で決めておくとよい。

段階3 実行・実践
学校・関係機関が協働して、役割分担に添った支援を実施していく。

段階4 チェック(モニタリング)
支援成果を評価し、うまくいったところ、うまくいっていないところを振り返る。それぞれ、なぜうまくいったのか、何がさまたげになってうまくいかなかったのかをケース会議で話し合う。プランがうまくいかない場合、見立て(アセスメント)が不十分なことがあるので、その場合は「段階1」に戻る。


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